シエル様のお屋敷に仮勤めをしてはや半月。
何をしても上手くいかない私は「言われたこと以外はやらない」というメイドにあるまじき指導を受けてしまった。
そんな私は他の方の邪魔に…というか、主にセバスチャンの邪魔にならないよう、端にいることが増えた。
「タナボタ?」
「七夕、ですよ」
珍しくリアル田中さんに声をかけられ、今日はニホンという国のタナバタという日だと教えられた。
聞いたことがない言葉の響きに興味を持ち、田中さんに尋ねる。
「タナ…バ、タ…は何をする日なんですか?」
「興味がおありですか?」
「はい!」
「では、お教えしましょう。七夕とは………」
「あああああああっ!!」
七夕について語る前に…リアル田中さんの制限時間が切れてしまった。
「た、田中さん…」
「ふぉっふぉっふぉ…」
どうやら、タナボタ…じゃない、タナバタとやらについては自力で調べねばならないようだ。
有り余った時間を使って、タナバタ…もとい、七夕について調べ…どうやら、短冊に願いをかければ叶うというものだというのがわかった。
その理由はいまいち良くわからなかったが、決して七夕について載っていた本の言葉が読めなかったわけではない。
断じて、ない!!
「えーと笹はこれでいいのよね」
ちょうど庭に笹の木が生えていたので、それをフィニに移動して貰って、窓から届くところに枝を持って来て貰った。
「それから、短冊は…………これでいいのかしら?」
本では細長い物に文字を書いていたけれど、それならこれでも代用出来るはず…ということで、先日、裁断ミスしてしまった布を使うことにした。
これなら紐がなくても木に結ぶ事が出来る。
「よ、ようは気持ちよ!」
七夕は、皆の願いを叶えると書いてあった。
お屋敷の皆さんは、こんな私にいつも優しくしてくれる。
中でもあの人は、何も出来ないこんな私にも…優しくしてくれる。
だから、今の私に出来ることを…したい。
「…う…上手く書けない」
布に字が滲んでしまい、なんだか恐ろしい感じになってしまった。
これも気持ち、のひと言で済ませても大丈夫なのか…こればかりはちょっと心配だ。
それでもなんとか、窓から見える場所にある枝に、沢山の願いを書いた布を結ぶ。
けれど結んでいる途中から怪しかった雲行きが、ついに崩れ…雨が降り出してしまった。
「嘘…」
これじゃあ一生懸命書いた願いが天に届かない。
雨が降り止むのを期待し、窓から身を乗り出して天を仰ぐが、私の願いを余所に雨の勢いは増していくばかり。
「どうしよう」
ぽつりと不安げな声を漏らすとほぼ同時に、背後から声が聞こえた。
「どうかしましたか」
「セ、セバスチャン!!」
「今日は貴女の姿が屋敷内で見受けられなかったので、またどこかで迷子になっているのかと思いました」
窓を背に振り返った私に近づいてくる、艶めいた声音。
寄りかかるものがなければ、今にも膝から崩れて座り込んでしまいそうだ。
目の前に立ち止まると、白い手袋をつけた手がこちらへ伸びてくる。
触れられる!?と構えた私の頬を、その手はあっさり通り越し、背後の枝に結んであった布へ伸びた。
「それで……これは一体何のまじないですか」
「あ、あの…七夕、の…おまじないを」
「七夕?」
「はい」
今日が日本の七夕であること、そして独学で調べた七夕の情報をたどたどしく彼に話す。
「…という訳なんです」
「なるほど、そうだったんですか」
「はい。でも、折角用意したのに雨が降りだしてしまって…」
恨めしげに空を見上げると、暗雲と共に、大粒の雨が空から落ちてくる。
「雨以前の問題が多いと思いますが…」
空を見上げている時に、セバスチャンが何か言ったようだが、雨音が強くて聞こえなかった。
「あの、今何か言いましたか?」
「いいえ、気のせいですよ」
「そうですか」
そしてもう一度空を見上げると、不意に身体を抱きしめられる。
「セバスチャン!?」
「窓辺にいると、濡れてしまいますよ」
耳元で囁かれる声は甘く、言葉を紡ぐ時に洩れる彼の吐息が耳にかかると、一気に力が抜けてしまいそうだ。
反射的に、彼の燕尾服を掴んでしまい、慌てて離す。
「ご、ごめんなさい」
「……構いません」
その声に甘えるよう、離した手をもう一度伸ばし、おずおずと彼の胸に頭を預ける。
ほんの少しの時間、そうしていると、セバスチャンが私の名を呼んだ。
「、貴女の願いが叶ったようですよ」
「え…?」
その声に顔をあげ、セバスチャンが示す窓の方へ視線を向けると、そこには図書室で見た本の挿絵そっくりな光景があった。
「これ…は……」
「貴女が用意してくださったものに、少し私が手をくわえただけです」
手をくわえただけで、木がこんなに細く、葉がこんなに長くなるのだろうか?
それに、布に書いた文字は全て、紙に書き写されてぶら下げられているし、色とりどりの細工もつけられている。
どう考えても、私を抱きしめている間に片手で出来ることではない…そう思い、窓からセバスチャンさんへ視線を戻した瞬間、唇に彼の指が触れた。
「ファントムハイヴ家の執事たる者、この程度のことが出来なくてどうします」
艶やかに微笑まれ、そういわれてしまってはこれ以上何も問えない。
「…お願い、叶うでしょうか」
「えぇ、勿論」
唇から布越しの指が離れ、セバスチャンとの距離が更に近づく。
見つめていた瞼は自然と下り、唇が触れあう瞬間…彼の声が、頭の奥に響いて…消えた。
――― あくまで、執事ですから…
お星様にお願いされた企画、でした、が…遊びすぎました(苦笑)
新人メイドと七夕を活かしたら、甘さが少量になりました。
名台詞2つ詰め込んだら、両想いいれられませんでした…すいませんorz
精進したい…と、思いますっっ!!
…というか、セバスチャンですか?!これ!!大丈夫なんですか!?(笑)←大問題発言
田中さんがいるのは、私の趣味です(きっぱり)
ちなみに彼女が最初に用意したのは、笹でも短冊でもありません。
そもそも、笹の木とか言ってるあたり、アウトです(苦笑)
お願い…多少なりとも叶えられたのならばよいのですが…
2010/07/12